短編集「おしどり探偵」(1929年)より、最初の3編「アパートの妖精/A Fairy in the Flat」「お茶をどうぞ/A Pot of Tea」「桃色真珠紛失事件/The Affair of the Pink Pearl」を1話にまとめてドラマ化している。
「アパートの妖精」は探偵局開設までの経緯、「お茶をどうぞ」は失踪した女性を捜索する探偵局の初仕事が描かれており、ドラマタイトルの「桃色真珠紛失事件」へと続いていく。
フランシス・セント・ヴィンセント・・・探偵局初の依頼人
ジャネット・・・セント・ヴィンセントの恋人
キングストン・ブルース大佐・・・軍人
キングストン・ブルース夫人・・・その妻
ベアトリス・キングストン・ブルース・・・その娘
レディ・ローラ・バートン・・・貴族の老婦人
エリーズ・・・レディ・ローラのフランス人メイド
ハミルトン・ベッツ・・・アメリカ人投資家
フィリス・ベッツ・・・その妻で桃色真珠の持ち主
ジョン・レニー・・・ベアトリスの恋人、社会主義者
グラディス・・・客間係のメイド
【ストーリー】
前作「秘密機関」の後に結婚したトミーとタペンスは、安定しているものの刺激の少ない日々に飽き飽きしていた。そんな折、倒産寸前の探偵社を買い取り探偵業に乗り出すことになる。
記念すべき事件第一号は、若い貴族のセント・ヴィンセントから依頼された失踪した恋人ジャネットの捜索。タペンスは「2倍の料金で24時間以内に解決!」という条件で依頼を引き受け、トミーは捜索に奔走するが・・・・
次に舞い込んだ事件は、軍人の邸で起きた高価な桃色真珠の紛失事件。事件当時、現場に居合わせた先の依頼人セント・ヴィンセントの推薦で、その家の娘ベアトリスが捜査の依頼に訪れる。トミーは購入したばかりのカメラを携えて、タペンスと共に事件の起こった月桂樹荘(ローレル)を訪れる。
真珠の持ち主はゲストで宿泊している裕福なアメリカ人ベッツ氏の妻フィリス。同じくゲストのレディ・ローラも滞在中で、その夜現場にはベアトリスの恋人レニーも来ていた。事件を表沙汰にしたくない軍人夫妻、ベアトリスも何か隠している様子。レディ・ローラの良くない噂も耳に入ってくる。紛失か盗難か?果たして真珠の行方は?
【サイレントからトーキー、禁酒法の時代】
アルバートは映画に夢中で、冒頭敵に追われるギャング気取りで登場する。1920年代後半からハリウッドで盛んに作られたギャング映画の影響のようだ。トミーにクギをさされたアルバートが退場した後、トミーが「His Rudolph Valentino is particulaly forgettable」(吹き替えでは「あれじゃルドルフ・ヴァレンティノに失礼だよ」)と言う。直訳すると「彼のヴァレンティノはとりわけつまらない⇒つまり忘れていいレベル、覚えておく価値がない、重要でない」という意味のようで、アルバートは映画を見る度に、そのキャラクターの真似をして不興を買っているのがうかがえる。(が、たぶん本人は気にしてない)
アメリカは禁酒法の時代(1920~1933年)で、アメリカから来た投資家ベッツ氏はイギリスでは警察におびえずに酒が飲めると大喜び。ベッツ夫人がセント・ヴィンセント青年に「米国旅行のご予定は?」と尋ねると、「禁酒法が解けるまで待ちます」と彼は笑って返す。
禁酒法時代に無許可で酒を製造販売することでマフィアやギャングが莫大な利益を得て勢力を伸ばし、抗争も激化したという背景もあって、ギャング映画が多く作られた。
【トミー、名探偵をきどる】
別の場面では、ホームズを気取ってパイプをくわえて、下手なバイオリンを弾いている。
【原作との違い】
・トミーが撮った写真に妖精のようなものが写っているというやり取りが省略されている。
・探偵事務所の買取り手続きが完了したと知らせに来るのは、原作では「秘密機関」にも登場したトミーの上司カーター氏だが、ドラマではマリオット警部に変更されている。また、この事務所と外国のスパイが絡んでいるというサイドストーリーがカットされているため、その部分に関するやり取りも省略されている。
・真珠の持ち主のベッツ夫人は、ドラマではよりキャラクターをふくらませて、陽気でドライなアメリカ人女性になっている。背が高くてハンサムなトミーを気に入った様子で、捜査の合間にそれとなく誘惑してくるくだりがあり、原作よりもドラマ全体がコミカルな仕上がりになっている。
レディ・ローラもドラマではより肉付けされた人物になっており、この回のゲストスター、ダルシー・グレイが演じている。
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