「死の接吻/A Kiss Before Dying」(1953年)
恋人を自殺に見せかけて殺そう、と青年はひそかに決意した。彼女が妊娠し、結婚したいと言い出したのだ。まだ二人とも学生なのに結婚し子供を持ったら、彼女は富豪の父から勘当されるだろうし、自分の思い描いていた輝かしい将来も台無しだ。取るべき方法はただひとつ・・・・・青年は完璧な計画を練り上げる―――。悪魔的な青年の冷酷非情な犯罪を描き、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞を受賞したサスペンスの古典的名作。(カバー紹介文より引用)

読む前に知っておくと、この小説を理解しやすくなる幾つかのこと。

◆サムシング・フォー/Something Four

結婚式における欧米の慣習。花嫁が4つのアイテムを身に付けると幸せになるという。
Something Old(何か古いもの)
Something New(何か新しいもの)
Something Borrowed(何か借りたもの)
Something Blue(何か青いもの)

◆アメリカの大学について

【ユニバーシティーとカレッジの一般的な違い】
University:複数の学部・研究科がある規模の大きな大学。総合大学。大学院課程あり。
College:複数の学部・研究科は設けていない規模の小さな大学。大学院課程なし。
※参考サイト
いまさら聞けない? 意外と知らない? CollegeとUniversityの違い(外部リンク)>>

小説の中で、次女のエレンはカレッジ、三女のドロシイはユニバーシティーに通っていた。長女のマリオンは名門コロンビア大学を卒業している。

【大学の入試制度/転校・編入】
アメリカの大学には日本のような一斉の入学試験はなく、審査(学校の成績、エッセイ、推薦状、課外活動、テスト、面接)で総合的に合否が判断される。その基準も大学によってそれぞれ異なり、偏差値というものもない。
アメリカの大学は、日本と違って「入るよりも出る方が難しい」と聞いたことがある。

アメリカの教育制度は、一般的に「飛び級」「短大から四大」「複数の四年制大学間を移る」など、その柔軟さが「アメリカ高等教育の売り」の一つで、とにかく自由。
転校・編入に絞ると、手続きを踏んで先方の学校に合格さえすれば、出入りを制約するような決まりを持たないのが通常。(下記サイトからの引用)
アメリカの短大・四大の転校・編入について(外部リンク)>>


以下、ネタバレ感想。
結末に触れているので、未読の方はご注意ください。

この小説は3部構成になっており、それぞれのタイトルに三姉妹の名前が付けられている。第一部は三女のドロシイ、犯人の視点から書かれている「事件編」。第二部は次女のエレン、妹を殺した犯人を追う彼女が主役の「捜査編」。そして第三部は長女のマリオンで、「解決編・復讐編」となる。
第一部は犯人の生い立ちから犯行に至るまでが描かれているが、犯人の名前は書かれていない。第二部ではエレンが探偵役となり、数少ない手がかりから容疑者を絞り込んでいくが、犯人に先回りされ口を封じられてしまう。第二部の終わりに、読者には犯人が誰であるかが分かるのだが、犯人は更に第三部で長女のマリオンに魔の手を伸ばしていく・・・・という巧妙な構成で、グイグイ引き込まれて読んでしまった。探偵役はエレンから、彼女に惹かれたゴードンに引き継がれていく。

犯人にはもちろん共感できないけれども、目標を定めてそこに到達する手段を考え、準備を整えてそれを着々と実行していくのには感心していまう。容姿にも才能にも恵まれているのだが、その使い方がねーーー。
娘たちは父親の仕事には全く興味が無かったが、犯人が精錬所には本当に興味を持っていたのは皮肉だった。工場で憑かれたように熱心に質問していたし、何より会社のパンフレットを捨てずに取っていたのだから。ただ、ああいう最期が待っているとは思いもよらなかった。成功を手にしたと思ったのも束の間、文字通り地獄の釜の中へと落ちて行った。

この小説は、息子はどこにいるかと犯人の母親が尋ねるところで終わる。その後、登場人物たちはどうなっただろうか。あれこれと想像が膨らむ余韻のある幕切れだ。
作者が23歳の時に発表された作品だが、その完成度の高さに驚く。