※「幻の女」(ウィリアム・アイリッシュ)のストーリーに触れているので、未読の方はご注意ください。
「愛と死の砂時計」和田慎二
集英社の別冊マーガレット1973年8月号に掲載された読み切り漫画。
死刑を宣告された婚約者のためにアリバイ証明となる謎の娘を探すというストーリーで、ウイリアム・アイリッシュの名作ミステリー小説「幻の女/Phantom Lady」の少女漫画版である。死刑判決がおりた瞬間、ヒロインは砂時計の砂が静かに落ち始めるのを聞く。それは確実に恋人の死への時を刻み、砂が落下し終えた時には恋人の死と彼女の絶望が待ちかまえている。
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少女漫画なので主人公は女子高校生、そして死刑判決を受ける彼女の婚約者は同じ高校の教師という、今改めて読むと驚きの設定である。冒頭の20ページで事件発覚から死刑判決まであっという間に話が進んでしまうが、100ページの紙面に収めなければならないので、それは仕方ないところ。
共に真犯人を追うのは主人公、私立探偵、そして彼女の親友。犯行時刻のアリバイを証明できるのは「紫の服の娘」だけ。この娘が、原作の奇妙なオレンジ色の帽子をかぶった「幻の女」にあたる。「紫の服の娘」を探す中、いろいろな妨害があり、彼女につながる手がかりを持った人物が次々亡くなる(階段から落ちるのもあり)。「幻の女」と同じように、最後は捨て身の主人公が「紫の服の娘」に扮して犯人に罠を仕掛ける。スピーディーな展開で一気に読ませる。
「別冊マーガレット」のメインの読者層は小学校高学年~高校生くらいだったので、和田慎二の漫画のヒロインはセーラー服姿の高校生が多かった。高校生が主役なので、非現実的な部分もあり突っ込みどころも多いが、この名作サスペンスをうまく少女漫画に翻案している。アクションシーンや死体のグロテスクな描写なども迫力がある。
後に「幻の女」を読んだ時に、この漫画が記憶にあったかどうかは覚えていないが、たぶんすっかり忘れているまっさらな状態で「幻の女」を読んだと思う。今でも大好きな小説だ。
死刑までのタイムリミットがある小説では、「幻の女」(1942年)よりも先に書かれたジョナサン・ラティマーの「処刑六日前」(1935年)も面白かった。ラティマーの作品はハードボイルドに分類されているようだ。
そして、こちらが「巌窟王/モンテ・クリスト伯」の少女漫画版。
「銀色の髪の亜里沙」和田慎二
別冊マーガレット1973年4~5月号に前後編で掲載された読み切り漫画。
本条亜里沙は13歳の社長令嬢。父は事故死に見せかけて殺され、親友と信じていた3人の同級生に陥れられ、地下の吐竜窟に閉じ込められる。父の会社は乗っ取られ、母もその後亡くなる。先に吐竜窟に閉じ込められていた考古学者の老夫婦に助けられ、自分と家族が陥れられたことを理解した亜里沙は、絶望的な状況の中、強い復讐心を支えに生きる決意をする。博学な老夫婦の教育を受けながら、生きるために体を動かす日々。月日は流れ、亜里沙は別人に生まれ変わる。老夫婦の死後、命がけで吐竜窟を脱出した亜里沙の髪は銀髪に変わっていた。
しばらくして飛鷹アリサという外国帰りの転入生が名門高校にやってくる。そこではかつて亜里沙を陥れた3人が、それぞれ学業、陸上競技、演劇の分野で名を馳せていた。ここから第二幕の復讐劇が始まる。
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「巌窟王/モンテ・クリスト伯」の主人公は、友人たちに陥れられ、牢獄で神父と出会い教育を受け、財宝のありかを知り、脱出後に富を得て復讐を果たす。
このストーリーが見事に少女漫画化されたのが「銀色の髪の亜里沙」。こちらも前後編で100ページほどの漫画で、一気に読ませる展開はさすが。ちなみに亜里沙が活動の軍資金にしたのは、地下に眠っていた翡翠(ひすい)である。