監督:市川崑/原作:横溝正史/音楽:大野雄二
出演:石坂浩二、あおい輝彦、島田陽子、高峰三枝子、三条美紀、草笛光子、加藤武、三木のり平、三國連太郎、坂口良子 他

ネタバレ注意!!

横溝正史ブーム、そして原作とタイアップした大掛かりな宣伝によるヒットを狙った角川映画の口火を切ったのがこの「犬神家の一族」である。

犬神家の当主・佐兵衛の臨終の場面から始まって、佐兵衛の一代記、犬神一族の複雑な人間関係を一気に分かり易く見せている。
後で犬神製薬が軍需産業として発展したという裏事情も語られ、戦争に翻弄されたともいえる殺人事件の背景が浮かんで来る。戦後の混乱期の悲劇は横溝作品では繰返し語られるテーマである。

高峰三枝子の演じる長女・松子の貫禄と存在感は圧倒的だが、竹子、梅子も負けてはいない。
息子を殺されて半狂乱になる場面や、青沼親子への仕打ちを語り出す竹子(三条美紀)の演技は鮮烈だった。
またいつも和服が着崩れ気味の梅子(草笛光子)はどこか抜けた感じがして、特に等々力警部(加藤武)とのやりとりはコミカルだった。
竹子、梅子があまり活躍しなかったTV版に比べて、映画版の三姉妹の方が人間的で個性が際立っていて面白かった。
TV版の松子は亡父への復讐の念に突き動かされているようだったが、映画版の松子はまるで佐兵衛の亡霊に操られているかのようだった。
姉妹の団体戦だと、美人度&冷酷度ではTV版、総合点では映画に軍配を上げるとしよう。

感心したのは三姉妹の回想シーン。
白塗りメイク、コマ落としの画面のおかげで、中年女優が若い時代を演じる不自然さが上手くカバーされているし、何よりスタイリッシュな映像である。

佐清(スケキヨ)役のあおい輝彦はお目々クリクリ、復員兵なのに頬っぺたも丸々してて、犬神家のメンバーにしては健康的過ぎる。そのせいか例のゴムマスクもあまり恐くない。(TV版の方がずっと不気味)
むしろ気味が悪かったのはゴムマスクをはぐ時の「音」と戦争でつぶれた彼の「声」だった。
映画のスケキヨは聴覚的に怖い。

珠世(島田陽子)は背が高くてスケキヨとのバランスは悪いが、芯の強い凛とした美しさは及第点かなぁ。
狂った小夜子(川口晶)withガマガエルは意外に可憐、那須ホテル の女中(坂口良子)の可愛らしさにはびっくり!

そして石坂・金田一だが、映画を見ると彼のあっさりした持ち味もやっぱりいいと思ってしまう。頭をぼりぼり掻いても不潔な感じがしない。くどさが持ち味の等々力警部といい組合せである。

出たがり屋の角川春樹(プロデューサー)はこの第一作目から等々力警部の部下として、しっかり画面に写っている。(ヒッチコックを意識したな!)
横溝先生もまだこの頃はご健在で、カメオ出演してたなぁ・・・・

さて、あの有名な逆さ死体だが、なんでわざわざ「逆さま」にして湖から「半分」だけ見せなければならなかったのか、 その謎解きの説明が省かれていたのはいかん!断じていか~ん!

それにしても、この異常な一族の中で育って、母親もあんなに強烈で息子溺愛なのに、スケキヨさんは毒されずに良い人みたいで(優柔不断でマザコン気味ではあるけれど)、それが犬神家の大きな不思議のひとつ。
お父さんがまともで、そちらの血を引き継いだんかいな・・・・と、どうでもいいことを真剣に考えてみたりする。

ツッコミどころが多いけれど、好きな映画である。